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川崎フロンターレが「地域貢献10年連続日本一」になった具体的方法。算数ドリルから青いサンタまで

Jリーグが毎年実施している「J1・J2・J3観戦者調査」で、川崎フロンターレは2010年から2019年まで「地域に大きな貢献をしています」クラブとして10年連続第1位に選ばれた。

スポーツクラブが地域から評価されること自体は珍しくない。だが「10年連続日本一」というのは異常な結果です。一過性のイベントや派手なPRではなく、地味で継続的な活動の積み重ねでしか作れない数字です。

具体的に何をやってきたのか。地方クラブやアマチュアクラブが学べる事例として、整理しておきたい。


目次

教科書に載った「算数ドリル」事業

川崎フロンターレの地域活動を象徴する事例が、川崎市立小学校で配布されている「フロンターレ算数ドリル」です。

  • 2009年:フロンターレが独自に小学6年生用の算数ドリルを制作。選手が問題のキャラクターとして登場
  • 2011年:川崎市の教育予算として正式に組み込まれ、市内全小学校の対象学年に配布開始
  • 現在:川崎市の標準教材として定着

このドリルの何がすごいか。

ひとつは「クラブが税金で運営される教育事業に組み込まれた」こと。普通、企業が学校教材に名前を出すのは「広告」とみなされて忌避されます。フロンターレは、選手の写真を載せた問題(例:「中村憲剛選手がパスを出す距離は何メートル?」のような算数問題)を作ることで、子どもの学習意欲を引き出した。教育現場が「これは広告ではなく教材です」と認めた。

もうひとつは「子ども→家庭→ファン化」の導線になっていること。算数ドリルでフロンターレを知った子どもが家でその話をします。親がスタジアムに連れていく。家族で青いユニフォームを着る。20年後、その子どもが大人になってフロンターレのファンとして消費します。教育という最も信頼度の高い接点を経由した、超長期のファン獲得装置です。


学校現場への「セカンドティーチャー」派遣

川崎市教育委員会との連携で、フロンターレはコーチを市内小学校の体育授業に派遣しています。「セカンドティーチャー」と呼ばれる仕組みです。

教員が体育の授業を1人で持つのではなく、フロンターレのコーチが「もう1人の先生」として一緒に授業を作る。サッカーだけでなく、体を動かすことの楽しさ、栄養の取り方、世界のサッカー事情などを教える総合学習講座も2002年から開講しています。

年間の指導実績は約15,000名。サッカークリニック・巡回サッカー教室を含めて、川崎市内の児童・生徒に直接接触しています。

これがどう売上につながるか。直接的な売上は出にくい。ですが、毎年15,000人の子どもがフロンターレのコーチから学ぶことで、市内の数十万世帯にじわじわと「フロンターレ=地域の信頼できるパートナー」というイメージが浸透していく。10年続ければ、川崎市の人口の相当割合がフロンターレに何らかの接点を持つことになります。


「青いサンタクロース」の小児病棟訪問

フロンターレで最も愛されている地域活動が、選手たちが青いサンタクロースの衣装を着て市内病院の小児病棟を訪問する活動です。

通常、サンタクロースは赤い衣装を着る。フロンターレはチームカラーが青なので、あえて「青いサンタ」を企画した。これがメディアでも取り上げられ、「フロンターレらしさ」を象徴する活動として定着しています。

注目すべきは、これが選手の「義務」ではなく、選手たちが楽しんでやっている活動になっていること。新加入選手が初めて青いサンタになる際、ベテラン選手が「これがフロンターレの伝統だから」と教える。クラブの文化として継承されています。


ボランティア「15歳から78歳まで400名」

川崎フロンターレのホームゲーム運営を支えているのが、約400名のボランティアです。年齢層は15歳から78歳まで。中学生から後期高齢者までが、同じスタジアムで同じ目的のために動いています。

これは単なる「無料の労働力」ではありません。ボランティアたちはフロンターレの最も熱心なファンであり、最も強力な伝道師でもあります。彼らが日常生活で「フロンターレの試合に行こう」と周囲を誘うことが、観客動員に直結しています。

ボランティアの活動領域は、ホームゲーム運営だけでなく、地域イベント補助、子ども向けサッカー教室の手伝い、広報誌の配布など多岐にわたる。「フロンターレのファミリー」という意識が、世代を超えて共有されています。


育成組織「市内6ヶ所、約1600名」

フロンターレの下部組織は、スクール(幼稚園年長〜小学生)・ジュニア・ジュニアユース・ユースまで一貫しており、川崎市内6ヶ所で約1600名の生徒を指導しています。

2004年度には、ここから日本代表選手を3名輩出した実績もあります。

これも単なる「育成事業」ではありません。1600名の生徒には1600人の家族がいる。両親、祖父母、兄弟姉妹を含めれば、数千人がフロンターレの育成現場と直接つながっています。彼らはトップチームの試合観戦の最有力候補であり、グッズ購入の主要層でもあります。

地方クラブが育成組織を持つ意味は、「将来のプロ選手を生む」だけではありません。「現在の観客動員と売上を支える顧客基盤を作る」ことなのです。


「フロンタウンさぎぬま」というインフラ投資

2006年4月、フロンターレは人工芝ピッチ6面を持つフットサル施設「フロンタウンさぎぬま」をオープンした。

施設運営の翌年(2004年度のデータ)には、フットサル大会に300チーム・8,000名が参加。東日本一の開催規模となった。

これは「ファンの受け皿」を物理的に作るという発想です。試合観戦だけでなく、自分でボールを蹴る場所をクラブが提供します。サッカーを「観るスポーツ」から「やるスポーツ」に転換させ、しかもその場所がフロンターレ運営施設です。

施設運営は安定収益源にもなる。試合のチケット収入が天候や成績に左右されるのに対して、フットサル施設のレンタル収入は天候に強く、平日も稼働します。フロンターレは「クラブ事業の収益基盤を多角化する」という意味でも、この施設投資を成功させています。


「あんたが大賞」と商店街連携

フロンターレが市内の商店街・各種組合と組んで実施している「あんたが大賞」というイベントがあります。

地域への貢献度が高い人物・団体を表彰する企画で、賞品は商店街から提供されます。これにより、商店街にとっても「フロンターレと組むメリット」が生まれ、双方向の関係になっています。

これは大事な視点です。地域密着活動の多くは、クラブが「与える」一方向になりがちです。フロンターレは「クラブが与える」と「商店街・住民から受け取る」を両立させることで、関係を持続可能にしています。


なぜフロンターレはこのモデルを作れたのか

10年連続地域貢献日本一というのは、たまたまできたものではありません。背景には、創設期の経営判断があります。

フロンターレは1997年にJFLから出発し、1999年にJ2に参入した「後発クラブ」でした。ホームスタジアムである等々力陸上競技場は、すでに地域住民の生活圏に存在していた。新参者として、地域に受け入れてもらう必要があった。

当時の経営陣は「強くなる前に、好かれることを優先する」という戦略を選んです。Jリーグの中でも特に体系的に「地域密着」を経営方針として打ち出した。

それから20年以上が経ち、今やフロンターレはJリーグでも有数の強豪クラブになり、観客動員数も大きく伸ばした。地域密着活動への投資が、最終的に競技成績と経営基盤の両方を強化する結果につながった。


地方クラブが学べる5つのポイント

最後に、川崎フロンターレの事例から、地方プロクラブやアマチュアクラブが学べるポイントを整理します。

1. 教育現場との接点を設計します

算数ドリル・セカンドティーチャー・育成スクール。教育という最も信頼度の高い接点を経由してファンを作る。短期では数字に出ないが、10年・20年単位で効いてくる。

2. 「広告」ではなく「価値提供」の形にします

フロンターレは小学校に「広告を出した」のではなく、「無料で価値ある教材を提供した」。教員と保護者の信頼を得たから、教育現場に組み込まれた。

3. 双方向の関係を作る

商店街連携の「あんたが大賞」のように、クラブだけが与える関係にしない。地域からも受け取る仕組みを作ることで、関係が持続します。

4. ファンを「観る人」から「やる人」に変える

フロンタウンさぎぬまは、ファンが自分でボールを蹴る場所を提供。サッカー文化そのものを地域に根付かせる。

5. 文化として継承します

青いサンタクロースのような象徴的活動を、新加入選手にも引き継ぐ。「これがウチのクラブの伝統です」と語れる活動を持つことが、組織のアイデンティティを作る。


ストライカードットコム視点

筆者は、世界のサッカー文化を取材するメディアを運営しています。日本国内の「地域密着の教科書」として、川崎フロンターレの事例は世界に出しても通用するレベルです。

特に、欧州主要リーグでも「コミュニティ・エンゲージメント」は重要テーマになっています。マンチェスター・シティのCity in the Community、リバプールのLFC Foundation、バルセロナのFundació FCB。いずれも数十年規模で地域投資を続けています。

川崎フロンターレが特別なのは、「経営方針として地域密着を選び、それを20年以上ブレずに継続した」ことです。日本の地方プロクラブやアマチュアクラブが、自分たちの規模で再現できる事例として、フロンターレモデルは大きなヒントになります。

派手なスター選手の獲得や、巨額の補強よりも、「教育」「子ども」「商店街」「ボランティア」という地味な接点を、20年積み上げる。それが10年連続日本一の正体です。


参考リンク
川崎フロンターレ ホームタウン活動公式
川崎フロンターレ 地域貢献No.1(公式)
スポーツ分野にとどまらない取り組み(アイ・エム・プレス)
なぜ川崎フロンターレの観客数が5倍に増えたのか(マイナビ)
フロンターレ×地域密着の原点(スポーツナビ)
算数ドリルで実現するJチームの社会貢献(明治安田)
中村憲剛選手の映画は川崎の地域密着ヒストリー(スポーツビジネスのネタ帳)

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この記事を書いた人

ストライカードットコム編集部