サッカークラブは「赤字でも続けるべき公共財」と言われることがあります。チーム単体では儲からなくても、地域経済への波及効果が大きいからです。
では、実際にどれくらいのインパクトがあるのか。
北海道コンサドーレ札幌の2023年シーズンを試算したデータがあります。
経済波及効果:約211億円
北海道内への効果:約137億円
北海道への税収効果:約6.6億円
クラブ単体の売上は約50億円(2024年度過去最高)。それが4倍以上の経済効果を地域に生んでいる計算になります。
数字の中身を分解しながら、サッカークラブが地域経済をどう動かしているか、そしてそこから何が学べるかを整理します。
「経済波及効果」とは何か
そもそも経済波及効果という言葉の定義から押さえておく。
経済波及効果は3つの段階で計算されます。
第1次効果(直接効果)
サッカークラブの試合に直接関係する消費。
- チケット代
- スタジアム内の飲食
- グッズ購入
- ファンクラブ会費
これは「クラブが直接稼ぐお金」と「ファンがクラブにかける支出」の合計に近い。
第2次効果(間接効果)
クラブやファンの消費が、別の事業者の売上を作る連鎖。
- ファンがスタジアム周辺の飲食店で食事をします
- 遠征ファンがホテルに宿泊します
- 駐車場・公共交通機関を利用します
- お土産を買う
- 試合前後のショッピングをします
第3次効果(誘発効果)
第1次・第2次効果で売上が増えた事業者が、従業員に賃金を払う。その従業員が消費することでさらに経済が動く連鎖。
この3段階の合計が「経済波及効果」と呼ばれる。
コンサドーレの211億円は、この合計値です。
211億円の中身を分解します
2023年シーズンのコンサドーレは、レギュラーシーズンで27万3,400人の観客を集めた。1試合平均で約14,000〜15,000人。
これを波及効果として計算すると、観客1人あたり約7.7万円の経済効果を生んでいることになります。
「1人7.7万円」は多いように見えるが、内訳を考えると現実的です。
| 項目 | 金額(推定) |
|---|---|
| チケット代 | 3,000〜5,000円 |
| グッズ購入(年数回) | 5,000〜20,000円 |
| スタジアム周辺の飲食 | 2,000〜5,000円 |
| 遠征時の宿泊・移動 | 10,000〜50,000円 |
| 公共交通・駐車場 | 1,000〜2,000円 |
| お土産・寄り道消費 | 2,000〜5,000円 |
| 第2次効果(事業者の連鎖) | 上記の1.5〜2倍 |
熱心なシーズンチケットホルダーや遠征派のサポーターは、年間で10万円以上を関連消費に使っているケースも珍しくない(コンサドーレ サポーター文化の記事も参照)。
これが27万人分積み重なると、211億円という数字になります。
北海道経済との接続
コンサドーレの経済効果のうち、北海道内に137億円が落ちています。
北海道は人口約510万人、域内総生産(GDP)は約20兆円。そのうち0.07%がコンサドーレ関連で動いている計算になります。
「たった0.07%」と見るか、「1クラブで0.07%」と見るかで評価が変わる。
参考までに、北海道の主要産業との比較を試みる。
| 産業・施設 | 経済効果(推定) |
|---|---|
| 北海道日本ハムファイターズ(エスコンフィールド以前) | 約220億円規模 |
| 札幌ドーム単体 | 数十億円〜 |
| コンサドーレ札幌 | 211億円 |
| プロ野球独立リーグ・地方Jリーグ平均 | 数十億円規模 |
スポーツチーム1つでこの規模の経済効果は、地方経済にとって明らかに大きい。「コンサドーレが存在することそのものが、北海道経済の一部」と言える状態です。
クラブ単体の経営は赤字でも、地域は黒字
ここで重要な事実があります。
コンサドーレ自身は7期連続の赤字を計上しています。2024年度の決算でも純損失約2.7億円。にもかかわらず、地域経済への波及効果は211億円。
つまり、「クラブは赤字でも、地域は黒字」という構造が生まれています。
これがサッカークラブが「公共財」と言われる理由です。クラブ単体の損益では計れない価値を、地域社会に提供しています。
自治体・地元企業の意義
この構造を理解すると、自治体や地元企業がクラブを支援する意義が明確になります。
- 自治体:税収6.6億円が生まれる
- 地元企業:自社の売上が間接効果で増える
- 商店街:ホームゲーム前後の集客が増える
- 観光業:他県・他国からのスポーツ観戦客が増える
仮にコンサドーレに地元企業100社が年間10万円ずつスポンサー支援しても、合計1,000万円。これは211億円の経済効果と比べれば微々たる投資です。
「投資対効果」で考えれば、地元企業がクラブを支えることは合理的判断になります。
北海道経済の「マルチプライヤー効果」
経済学で「マルチプライヤー効果」という概念があります。1の投資が複数の経済活動を連鎖的に生む効果のことです。
コンサドーレの場合、クラブ売上50億円に対して経済波及効果が211億円。マルチプライヤー(倍率)は約4.2倍。
これは地方スポーツクラブのマルチプライヤーとしては、かなり高い水準です。プロ野球(地元密着型のチーム)のマルチプライヤーが2〜3倍程度と言われているのと比較しても、コンサドーレは高い。
理由は3つ考えられる。
① 札幌一極集中で消費が集中します
北海道は札幌に人口・経済が集中しています。コンサドーレのホームが札幌ドームであることで、消費が集中しやすい。
② 遠征サポーター文化
北海道は地理的に独立しているため、ホームゲームに本州・海外から「遠征観戦」する人が一定数いる。これにより他地域からの外貨が北海道経済に入ってくる。
③ 観光業との接続
北海道は観光地でもあります。サッカー観戦と組み合わせた「サッカー観戦+観光」のパッケージが成立しやすい。
地方事業者にとっての示唆
この経済波及効果の話から、地方で事業をやる人が学べることは多い。
1. 単体収益と地域効果は別物
事業の評価軸は「自社の損益」だけではありません。「地域に与える経済効果」を計算することで、自治体・地元企業からの支援を取り付けやすくなる。
例えば、地方の小さなEC事業者でも「年間◯人の地域住民を雇用」「地元仕入れ◯◯円」と数値化すれば、地元金融機関・自治体補助金の支援を引き出しやすい。
2. マルチプライヤーを意識した事業設計
自社の売上だけ追うのではなく、自社が起点になって周辺の事業者にも利益を生む設計にすると、地域全体から支援される構造ができます。
これは商店街・観光協会・地元メディアとの連携で実現できます。
3. 公共財としての位置づけを得る
「うちは地域の◯◯です」と公共財的なポジションを取ることで、応援される側になります。
コンサドーレが「北海道唯一のJ1経験クラブ」「北海道の誇り」というポジションを取っていることは、サポーター・スポンサー獲得の大きな武器になっています。
地方の事業者も、「地域でこのジャンルといえばうちしかない」というポジショニングを意識的に作ることで、競合に負けない構造を作れる。
ストライカードットコム視点:サッカーは経済装置
筆者がサッカービジネスを取材する中で、最も強く感じているのは、サッカーは単なる娯楽ではなく、経済装置だということです。
90分の試合の裏には、
- 数百名のクラブスタッフ(詳しくはスタッフ職種の記事)
- 数百社のスポンサー企業(詳しくは地方クラブのスポンサー営業)
- 数万人のサポーター
- 地元の飲食・宿泊・観光・交通事業者
- 自治体の税収
これら全部が動いています。
コンサドーレ211億円という数字は、その経済装置がいかに巨大な歯車を回しているかを示しています。北海道に住む筆者として、この事実を1人でも多くの人に知ってほしいと考えています。
そして、これは北海道だけの話ではありません。日本全国の地方クラブが、それぞれの地域で同じ構造を作っています。地方創生の現実的なモデルとして、サッカークラブはもっと注目されていい。
まとめ
- コンサドーレ2023年シーズンの経済波及効果は211億円
- 北海道内への効果は137億円、税収効果は6.6億円
- クラブ売上50億円に対してマルチプライヤー約4.2倍
- クラブ単体は赤字でも、地域は大きく黒字
- 遠征サポーター文化と観光業の接続が高い波及効果を生む
- 地方事業者は「地域効果」「マルチプライヤー」「公共財ポジション」を学べる
サッカークラブは、地域経済を動かす経済装置です。コンサドーレの数字は、その威力を北海道で証明しています。
地方で事業をやる人、地域経済を考える人、自治体関係者は、この数字を一度真剣に眺めてみてほしい。サッカーの見方が変わるはずです。
参考リンク
– 北海道コンサドーレ札幌 経済波及効果 211億1700万円(2023シーズン)(経済効果.NET)
– 株式会社コンサドーレ 会社情報(日経COMPASS)
– 北海道コンサドーレ札幌の経営情報(Jクラブ経営情報ポータル)
– 4期連続純損失も赤字大幅圧縮(財界さっぽろ)
– 札幌市、コンサドーレなどと札幌ドーム活性化へ(日本経済新聞)